◆ヒントになった「ホメオスタシス」
監督からのメッセージについて、〈天井絵と陽菜ちゃんの受難とをつなげてみると、B説もありえるんじゃないかな?〉とビビッときたきっかけは、農工大パンフレットの人新世ということば以外にも、まだふたつある。そのひとつ目は、帆高くんと夏美さんが占いの現場を取材しているシーンで、ある占い師さんの口から出てきた「ホメオスタシス」という言葉だ。
ちょっと難しい話になって恐縮だけれど、ホメオスタシスとは、元々はアメリカの生態学者キャノンによって提唱された生物学の用語で、日本語に訳すと「生体恒常性」という。自然界では、季節やその日の天候によって、気温や湿度が常に変化している。もしも生物が、外界がそのように変化するたびに影響を被っていたら、すぐ死に直結してしまう。そうならないよう、生物は、内分泌系によって放出されたホルモンを神経系統によって体中にいきわたらせ、循環器系、消化器系、免疫系などの諸器官全体が上手く機能するよう調節しつつ、自分の体内環境、すなわちいのちを維持している。
このように、生物が、外界からの影響にたいし自らのいのちの恒常性を保とうとするはたらきを、ホメオスタシスという(※)。
ちなみに、内分泌系がおかしくなってしまい、血圧がいっとき乱高下していた私の身体は、ホメオスタシスが異常の状態にあったといえる。いまはなんとか薬に抑えてもらい、生きながらえているのだけれど。
◆ホメオスタシスでつながった、天井絵と陽菜ちゃんの受難
どうでもよい私の健康情報はさておき、なぜ、占い師から発せられたこのホメオスタシスという言葉が、監督メッセージが仮説Bだと思うきっかけとなったのか。それは、占い師さんの言葉の流れからみると、陽菜ちゃんが人柱として天に召されていくシーンと神社の天井絵のシーンとが、ホメオスタシスという概念で繋がっているんじゃないかな?と直感したからである。
地球をひとつの生命体とみなすと、地球もまた、自らの内部環境を良好なまま維持しようとするホメオスタシスをもつと仮定することができる。たとえば、地球が自分を熱くもしすぎず、冷たくもしすぎないよう、氷期と間氷期とを循環させてきたように。
正確なセリフを覚えていなくて恐縮だけれど、占い師さんは、地球をひとつの生命体に例えるような話をしながらホメオスタシスに言及していた。その言葉を思い出しながら考えると、天井絵の場面も陽菜ちゃんの受難も、時代はちがえど、地球が自らのホメオスタシスを維持しようと、すなわち、自分の内部環境を整えようとして起きた、一連の、そして同一の出来事として監督は描いているのでは?とみる解釈も成り立ってくると思うのだ。
◆現実味を帯びてくる監督メッセージの仮説B!?
もしも、こうした解釈が合っているとするなら、監督は、異常気象も、異常気象の原因となっている現在の地球温暖化もまた、近代以来の人間活動はそもそも関係なくって、地球のホメオスタシスの範囲内で起きている変動のひとつにすぎないという視点から、映画を構成されている可能性もかなり高まってくる。
そうだとすると、監督のメッセージは、一昨日の記事で提起した仮説Bだという見方も、俄然ありえる話になると思うのだ。
【注】
(※)「コトバンク」掲載の『ブリタニカ国際大百科事典 小項目辞典』「ホメオスタシス」のページを参考にしました(https://kotobank.jp/word/ホメオスタシス-134114)(最終閲覧日:2020年3月20日)。