◆ご主人の初盆を迎えたおばあさん
新海監督は、異常気象は人間の活動が原因じゃない、と言いたかったのではないかという、あまりにも大胆な仮説を展開してきてしまった。反省。けれど、天井絵のシーンから考えうるこのような監督のメッセージの解釈は、もしかしたら、けっこう当たっているかも!と勝手に予感してもいる。
そう推測する理由は、占い師のシーン以外にもある。
陽菜ちゃんが、お天道様の光を取り戻す仕事を展開していたとき、「夫の初盆の日だけはせめて晴天にしてあげたい」と依頼してきた、下町在住のおばあさんがいた。陽菜ちゃんは、帆高くん、凪くんと一緒に、最後の仕事と決心して、おばあさんのお宅を訪問する。
このシーンは、けっこう長い時間をかけて描かれていた。そのなかでも、帆高くん、陽菜ちゃん、凪くんが、迎え火の意味をおばあさんに教えてもらいながら3人ではしゃいでいるのが、本当のきょうだいのような感じがして印象的だった。
久しぶりのにぎやかさを前に嬉しそうなおばあさんの笑顔をみながら、お孫さんが帆高くんにお礼を言うシーンには、ちょっとジーンときた。
◆帆高くん、おばあさんと久しぶりの再会!
それから2年以上経った後。東京農工大学に進学するため上京した帆高くんが、このときのおばあさんと久方ぶりに再会したときの言葉が、とても意味深だと感じたのだ。
帆高くんが「そういえば仕事用のホームページを消していなかったな~」的な独り言(記憶が定かでなく正確性にかけます、すみません!)を言いながら、久しぶりにウェブサイトを開いてみると、そのときのおばあさんからあらたなメッセージが届いていた。
それに気づいた帆高くんは、対応できなかったお詫びをしなきゃいけないと思って連絡をとり、おばあさん宅を訪問。そして、おばあさんが思い出の家を異常気象による水没でなくし、(たぶん)多摩地域の団地に移住しているのを知った。
久しぶりに再会したあとの、しばしの沈黙が、その事態の意味する喪失の重大性を物語っているような気がした。
◆おばあさんの言葉は、監督メッセージのB説を補強している?
このとき、おばあさんが、「たいへんでしたね」と慰めてくれた帆高くんに向かって返した言葉が、いまでも頭にこびりついていて、忘れられないのである。
「でも、これが当たり前の姿だからね。」(映画館に行ってからだいぶ時間が経っているのでおばあさんの言葉の記憶も不鮮明です、すみません!)
それに続いて、もともと海底だったところが海に戻るのは、なにも悲しいことではない、それが地球にとっては当然なのだから、といった内容の言葉を、おばあさんが帆高くんに返したのである。
おばあさんのこの言葉は、地球はあくまでもホメオスタシスを守るために雨を降らせているのであって、その結果、もともと海だったところが元に戻るのは当然のことだ、と言っているようにも聞こえる。そうじゃないと、ご主人との思い出の家をなくしてもなお、異常気象とも思える天候が「当たり前」とは、とても言えないような気がするのだ。
このように、むちゃくちゃ意味深だと思える、おばあさんの言葉。それは、もしかしたら、監督の考えかたが込められたメッセージなのかもしれない。そう捉えてみると、このシーンのおばあさんの言葉もまた、監督のメッセージが実は仮説Bなのかもしれない、と予感させるのだ。