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巷間では、安倍首相が日曜日(16日)のお昼を私邸でのんびり過ごし、夜にてんぷら会食していたことが話題となっている。三宅雪子前衆議院議員がそれを非難し、湯川れい子氏や津田大介氏がそれに続いたそうだ。
そうした声にたいし「きちんと指示が出されていたのであれば、別にてんぷらを食べていようと問題ないのでは」、あるいは「ではそういって非難する人たちは何か行動を起こしたのか?」という反批判が相次いで、かれらのブログやツイッターが「炎上」し、火消しに追われたそうである。
累計で19人死亡(16日付『読売新聞』)。広域での停電。透析に象徴される、継続的治療が必要な患者を襲う困難。孤立する複数の地域。記録的な大雪を要因とするこれらの被害は、れっきとした自然災害である。被害の規模や広さからみれば、むしろ非常事態だとすらいえる。
しかし、防災担当大臣が初会合を開いたのは16日(日)。そして、政府が非常災害対策本部を設置したのは、なんと今日18日である。安倍首相は、てんぷら会食批判にたいし、14日からすでにちょこちょこ会合を開いていたとツイッターで反論したそうだが、真偽のほどは確かめようがないし、公式の初会合が遅かったという事実は動かしようがない。
被災者や犠牲者の思いを汲めば、どう贔屓目に見ても擁護できないテンポである。
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雪は14日(金)から降り積もっていた。ボランタリーに集った住民同士で、私の住む集合住宅内のおおかたの雪かきが終わったのは土曜日(15日)である。それくらい、今回の雪はすごかった。
それにもかかわらず、大雪が降り始めてから4日もあとの対策本部の立ち上げだから、お世辞にも危機意識があるとはいえないし、釈明は言い訳にしか聞こえない。
孤立したまま動けない人びとが、今日でもまだ5000人以上いる(「雪害孤立5千人超」本日付『東京新聞』)。亡くなった方は、すでに20人を超えている。
そんななか今日ようやく立ち上がった対策本部で、安倍首相は「(1)孤立による凍死者を一人も出さない(2)次の降雪に備え除雪態勢を加速させる(3)ライフラインの復旧や道路の通行確保に努める」等の指示を出したという(時事通信)。
とくに被災された方がたからしてみれば「何をいまさら言っているのか?」という感が否めないだろう。
自然災害は、それだけで、人間のいのちを奪いかねない脅威である。しかも、自然災害は毎年必ず発生する。だからこそ、日常的な準備が必須となる。それができているところは減災に成功し、できていないところは、災害が襲ってきても、いつ対策を始めればよいかすら分からずに被害が拡大する。
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東日本大震災で話題となった釜石の奇跡は、群馬大学の片田敏孝教授が行政と協力して日常的に防災教育を行い、子どもたちの津波への意識が高まっていたからこそもたらされた、減災の奇跡だといわれている(このあと当時中学生だった方がけっして美談ではないという告白をされているのですが、それについてはまた後日記したいと思います〔2022年記〕)。「津波てんでんこ」という地方特有の言い伝えがあったのも功を奏した。
1月11日付日記(本ブログでは【災害から考える17~20】に相当)に記した南三陸町立戸倉小学校の奇跡も、日常的な防災意識の賜物である。
これらの実例は、次のことを示してくれている。自然災害から身を守るためには、まず、災害の性質を知っておく必要がある。くわえて、それにどう対処するか日常的に考え、万全の準備しておかないといけない。そうした日常の備えがあってこそ、災害が発生しそうだという情報がもたらされた段階で、日常的に準備してきた精神的、物質的な対策をとることができる。しかし、そうではない場合、災害を乗り切るのは難しい。
こうしてみると、関東圏はお世辞にも大雪対策が万全だとはいえないのだから、防災大臣は、大雪の可能性が指摘された段階で、せめて限られた設備のなかでの最大限の備えをするよう指示し、行政の、市民の意識を大雪対策に振り向けるべきだった。そして、雪が降り始めた段階で、政府は災害対策本部を立ち上げ、都県、市町村を全面的にバックアップすべきだった。孤立して困難な状況にある人びとに、首相は何らかのメッセージを発信すべきであった。
こう考えを巡らしてみると、政府の初動が遅かったのは間違いないし、大雪で困難な状況に陥った多くの人びとの苦しみに、閣僚たちが心底寄り添えていたのかどうかもきわめて怪しくなってくる。
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ジャーナリストの上杉隆氏は、政府の動きが鈍かった理由を、ソチオリンピックの放映権獲得のために大金をはたいたNHKへの配慮ではないかと推測する(【記事1】参照)。NHKは、政府が非常事態や激甚災害を宣言すると、必ず特別番組を放送しなければならない(放送法の規定)。そうなると、せっかく支払った放映権料が水の泡となってしまうからだ。
もしかしたら政府は、政府が送りこんだといわれるNHKの経営委員から、そうした打診を受けていたのかもしれない。一方、安倍首相が自らの政権の鈍い動きを悟られないようにしたかったのだとしたら・・・。両者の思惑は見事に一致する。あくまで憶測にすぎないのだけれども・・・。
大雪から日が経つにつれて、犠牲になる方は増え、孤立地域の危機は増すばかりだった。
そうした状況であるにもかかわらず、政府の存在感は全く感じられず、初動も遅れた。
だから、事前に立てることができはずの対策を立てずに、防げるはずの被害が発生した可能性は否定できない。この場合、自然災害はれっきとした人災へと変わる。だから、政府の初動の遅れは非難されるべきだし、今後のためにも、大雪への認識を根底から変えてもらわないといけない。
抽象的な危機の扇動に躍起になるあまり、目の前の具体的な危機に対処する術をもたない政府の、統治能力の欠如。オリンピックに浮かれ、具体的な危機を見落とし、権力監視という「第四の権力」の仕事を忘れた、大方の大手マスコミ。
もしかしたら、この国はすでに、全体主義の時代に一歩、足を踏み入れているのかもしれない。
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~資料~
【記事1】なぜNHKは山梨の大雪災害を報じないのか? 上杉 隆(ジャーナリスト/元山梨県在住)
「NOBORDER SOCIETY」2014年2月16日(日)記事
http://no-border.asia/archives/19230
14日から振り続いた雪は、山梨などの甲信越地方を「陸の孤島」にしている。/国道20号線、中央自動車道、中央本線などの「甲州の大動脈」も、いまだ復旧の見通しの立たないまま、3日目の夜を迎えようとしている。/「県内だけでも、家に帰れず、車の中で過ごしている人々が数百人にのぼるのではないかとみている。凍死や一酸化炭素中毒など死の危険に直面している人も少なくないはず。政府は本当に対応を急いでほしい」(県庁職員)/ネットの世界では、安倍官邸の反応が鈍いとし、テレビ局も山梨の悲劇を「ぜんぜん報じていない」と大騒ぎである。/実際、今回の場合、その指摘は正しい部分が少なくない。/その最大の理由は、ソチ・オリンピックにある。/日本の場合、オリンピックの放映権は、数年前からNHKと民放で構成される「JC」(ジャパンコンソーシアム)で決定し、電通を中心として広告出稿などのスポンサー割当までをも振り決めていく。/年々高騰する膨大な放映権料は、テレビ局に取っては死活問題であるゆえに、五輪関連番組はアンタッチャブルな絶対的な「商品」となっているのだ。/そうなると困るのは、大地震や災害や戦争などが起きた場合の緊急報道である。/とくにNHKは、政府から非常事態宣言などが出され、緊急災害放送を余儀なくされると困ってしまう筆頭であろう。/というのも、NHKの災害報道(臨時災害報道も含む)は、放送法(第8条など)で定められ、大災害時には報じなければならないものと義務づけられているからだ。/ということで、仮に、オリンピックの時期でなければ、甲府放送局発のNHKニュースは遊軍などの力も借りて、もっと充実したものになっていただろう。/報道か、放送か…/日本のテレビ局がこの命題を突きつけられたときに、どちらを選択して来たか、云わずもがなであるが、筆者の第二の故郷・山梨にとっては哀しいばかりだ。
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【記事2】大雪被害の死者16人に…政府調査団、ようやく現地を視察
安倍首相は高級天ぷらに舌鼓
歴史的な大雪なのに政府の腰は重かった。/これまでに死者は全国8県で計16人に上る。ところが、古屋圭司防災担当相が大雪対応のための関係省庁災害対策会議を開いたのは16日午後1時だ。この時点で、すでに群馬県高崎市や福島県福島市など複数の自治体から自衛隊に派遣要請が出ていた状況を考えると、あまりに遅すぎる。/政府調査団は17日午後、観測史上最多の積雪を記録した山梨県甲府市などをヘリで上空から視察するが、住民らは「もっと早く来い」と怒り心頭に違いない。/防災担当大臣も呆れるが、それ以上にノンキなのが安倍首相だ。16日は午前中を都内の私邸で過ごし、夜は赤坂のてんぷら料理店「楽亭」で高級料理に舌鼓を打っていたのだ。こんな男に国民の生命、財産が守れるはずもない。
(2014年2月17日「日刊ゲンダイNet」
http://gendai.net/articles/view/news/148028
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【記事3】安倍首相、道路の通行確保指示=非常災害対策本部設置―大雪被害
政府は18日、関東甲信から東北にかけての記録的な大雪被害を受け、災害対策基本法に基づく非常災害対策本部(本部長・古屋圭司防災担当相)を設置、初会合を開いた。安倍晋三首相は(1)孤立による凍死者を一人も出さない(2)次の降雪に備え除雪態勢を加速させる(3)ライフラインの復旧や道路の通行確保に努める―などを指示した。
時事通信 2月18日(火)12時49分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140218-00000090-jij-pol
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【記事4】大雪で7都県3200世帯孤立…車両も立ち往生
読売新聞 2月16日(日)19時37分配信(最終更新:2月17日(月)2時6分)
関東甲信から東北にかけての記録的な大雪で、16日も各地で集落の孤立や車の立ち往生など影響が続いた。事故も相次ぎ、読売新聞が同日深夜までにまとめたところ、大雪となった14日以降の累計で19人が死亡し、負傷者は30都府県で1573人に上った。/積雪で道路が通行できなくなり、孤立する集落が続出。16日深夜には、静岡市や東京都青梅市、群馬県南牧村(なんもくむら)など7都県11市町村で、少なくとも3200世帯の6900人に上っている。/高速道路はこの日も除雪作業に追われた。深夜になっても中央道、東北道などの一部区間で通行止めが続いているが、東名高速は解除され、2日ぶりに全区間で通行可能となった。/スリップ事故が多発し、後続車両が長時間動けなくなる事態も相次いだ。群馬、長野県境の碓氷峠付近の国道18号では、一時250台が立ち往生した。/東北道の通行止めで、福島、宮城両県を結ぶ国道4号に車が集中。30キロ以上の渋滞が発生し、多くの人が車中で一夜を明かしたほか、山梨県富士河口湖町のホテルでは宿泊客らが孤立した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140216-00000354-yom-soci