※今日はエイプリルフール。気の利いたおもしろい創作記事を書いてみたい、と思っていたけど、いいアイデアがまったく思い浮かびませんでした。クリエイターのみなさんは本当にすごいなと改めて思った次第です。というわけで、今日は昨日のおもちゃ屋さんの思い出の続きです。
◆再開発の波
そんなみのる屋さんに、転機が訪れる。再開発の波にのまれたのである。
私の住んでいる町・府中は、大國魂神社の門前から府中駅にわたるエリアが、商業地として栄えてきた。狭い路地で雑然としている感じだったけれど、それだけに個性的な店が並ぶ、門前町としての風情ある街並みがあった。
そうした街並みが少しずつ再開発され、私が移住してきたときはすでに、ある一角は大手デパートに、別の一角は映画館のある商業ビルになっていた。そして、みのる屋さんのあった最後の一角も、ついに、再開発され、商業ビルに生まれ変わるときがきたのである。
◆仮設の店舗で頑張っていたみのる屋さんが・・・
こうして、個性的なお店の集まる古くからの町並みは、ほぼ消滅した。知り合いがバイトしていた歴史ある居酒屋さんがそうだったように、多くのお店が廃業した。山梨直送の地鶏の串焼き居酒屋「けむり」さんのように、惜しまれつつ別の街に移っていったお店もあった。
みのる屋さんは、仮設の店舗で営業を継続されていた。そして、再開発工事中も、私たち家族に、町の子どもたちに、夢を与え続けてくれた。工事が終われば、完成した商業ビルに出店する、はずだった。
いまでも忘れられない、2年半ほど前のこと。めずらしく3週間ほど行っていなかったので、こどもたちを誘ってみのる屋さんに行ってみた。いつものようにワクワクしながら歩道を進む。ところが、目の前に飛び込んできたのは、がら空きで、張り紙のしてある仮設の店舗だった。
嫌な予感がしつつ、記されている文字を読んだ。
長い間のご愛顧、ありがとうございました・・・
愕然とした。二男は泣いていた。
◆再開発ですてきなお店が消えていく理由
それからすぐのこと。ある研究会の懇親会の場で、このときの悲しみを打ち明けた。
すると、弁護士さんが、私の知らなかった現実を教えてくれた。
「再開発してビルが建つと、きれいにはなるんだけど、使用料が高いんだよね。だから、地元密着で頑張ってきたお店は、経営が厳しくなってしまう。再開発したビルの中は、どこの町でも、そういったお金を払う体力のあるチェーン店が多いでしょ? でも、結局は、そうやってどこもチェーン店ばかりになって、個性的な街並みが消えていくんだよね。」
なるほど。そうだったのか!
みのる屋さんは、それまでと比べてどれくらいのお金を追加で支払う必要があったのだろう?
元のお店より何分の1も狭かった仮設店舗での経営も、厳しかったに違いない。
もっとお店に行って、たくさんおもちゃを買っていれば・・・。
微々たる力だけど、支えになれていたかもしれない。
でも、後悔してもすでに遅かった。
◆個性的な店の集う古きよき街並みが、人を呼んでいたのかも!?
こうして、私の住む町の中心に、大きな商業ビルがふたつ建った。
その結果、もともと建っていた映画館のある商業ビルからは、個性的なお店がどんどん撤退している。
レストラン、海外フード小売店、衣料品店・・・。
そして、昨日で営業を終了した某大手玩具チェーン店もまた、このビルのなかにあった。
大國魂神社の向かいにあった某大手百貨店も、昨年9月に撤退した。
こんな悲しい現実を前に、ある仮説が浮かぶ。
かつての趣ある街並みのときのほうが、府中まできてショッピングや飲食をしてくれる人は、多かったんじゃないだろうか?
だから、おもちゃ屋さんがふたつあっても、共存できていたんじゃないだろうか?
しかし、個性的な街並みが失われ、既視感のある商業ビル群になった結果、来る人が減り、それゆえ町に落とされるお金も減り、撤退せざるを得ないお店が増えているんじゃないだろうか?
◆町を盛り上げないと・・・
もちろん、これは仮説であって、元の街並みの頃と現在との消費動向のデータを比較してみなければ、はっきりしない。オンラインショッピングが普及したという別の要因もあるのかもしれない。
それでも、たとえば吉祥寺のように、個性的な街並みの維持に努力しているところには、人が集まるし、つねに話題にもなっている。
都市政策の専門家で、明治学院大学准教授(いまは龍谷大学教授)の服部圭郎さんの講演を拝聴しに行ったとき、再開発をして人の往来が減った例はたくさんあると仰っていた(※)。
町をあげて思い切った取り組みをしないと、手遅れになってしまうんじゃないか・・・そんな不安が頭をよぎる。
府中をもりあげるために、なんとかしたいけど、エイプリルフールのネタも思い浮かばない、発想が貧困な自分・・・。何をすればいいのだろう? ゆっくり考えてみよう。
【注】
※服部圭郎さんのご著書『道路整備事業の大罪――道路は地方を救えない』(洋泉社新書、2009年)は、都市政策や街づくりに関するいろいろな具体例が載っていて、勉強になります。