◆とある待合室で
先週金曜日、とある待合室でのこと。Cくんは、こどもの遊び場でおもちゃをいじっていた。そこには、4~5歳くらいのお兄ちゃんがいた。
Cくんが持っていたおもちゃが欲しいお兄ちゃんは、「おもちゃはみんなのものなんだよ。お店の人に聞いてごらん?」と何度も繰り返す。でも、まだ2歳のCくんには、お兄ちゃんの言葉の意味が分からない。だから、ときどき気まぐれに「どうぞ」と言っておもちゃを渡しても、またお兄ちゃんから取り返す。そんな微笑ましいやり取りが続いていた。
私は、2歳児に向かって真剣に向き合うお兄ちゃんの言葉に、内心大笑いしながら、〈おもしろいし、Cくんのためにもなるから、どんどん言ってくれ!〉と、ひとりでむずかゆがっていた。
◆こどもの解決法
そんなやりとりを見て申し訳ないと思ったのか、お母さんがお兄ちゃんにこう注意された。
「3個しかないんだから、3個はふたつに分けられないんだから。小さい子にあげなくちゃ。」
私が「すみません、大丈夫ですよ!」とお母さんに伝えた直後、お兄ちゃんがこう言ったのである。
「だったら、4つに増やせばいいじゃん。お母さんが買ってくれたらいいじゃん。」
お母さんが買ってくるのはちょっと違うよ!とついついツッコミたくなったけれど、4つに増やせば解決するじゃん!?という提言には〈なるほど!〉と思った。
足りなければ、なんとか知恵を振り絞って、お互いWin-Winになるようにしたほうがいい。
お兄ちゃんが言いたかったことを端的に要約すると、そういうことになる。
お兄ちゃんのこの解決策を、「3を4にする理論」と名付けてみよう。
◆直接保障はバランスを欠く?
昨日の『朝日新聞デジタル』の記事。野党の議員が、緊急事態宣言の影響による損失補填を、直接保障により事業者へ行うべきではないかと質問した。それに対し、首相は「そこ(飲食店)に納入している人たちも、大きな影響を受ける。自粛要請している人に限って、その額を補償するのは、バランスを欠く」と答弁、直接保障を否定したのだという(※1)。
でも、ニュースでは連日、自営業者や中小企業の苦境が報じられている。今朝のグッドモーニングでも、「きくや」という居酒屋のマスターが、「コロナで死ぬか、営業自粛で死ぬか」どちらかだと訴えていた。もはや「まったなし」の状況である。
自営業者がどんどん廃業し、中小企業がどんどん倒産し、天下におカネが回らなくなったら・・・。
危ぶまれるのは令和恐慌である。多くの人のいのちが危機に晒される。そうなってからでは遅いのだ。
◆希望の持てる大人たちの動き
先にご登場いただいたお兄ちゃんなら、この苦境をどうすればいいと答えてくれるだろう?
たぶん「だったら、飲食店にも納入業者にも、同時に直接保障すればいいじゃん!」という「3を4にする理論」に基づいた知恵を、私たち大人に授けてくれるに違いない。
でも、幸い、そうしなければこの国の経済が危ないと気づいている大人はいっぱいいる。政府の動きに業を煮やし、いまこそ国債を出して経済を支えるべき時だ!と主張する与党議員の動きも出始めた(※2)。まさに「3を4にする理論」である。山本太郎さんのように、首相に直接、経済対策の提言書をわたそうとする動きもある(※3)。いわずもがな、野党はずっと事業者への直接保障を求めている。
メディアの大人たちも頑張っている。たとえば『羽鳥慎一モーニングショー』では、中小企業の場合は人件費が相当な割合を占めるのだから、労働者の日当補償を行うべしと、海外の事例を紹介しつつ2か月前から発信し続けている。
◆新型コロナ対策と休業補償=切っても切り離せない両輪!
補償がなければ、多くの労働者は、自営業者は休めない。休めないと満員電車はこれからも続く。お店が休業できないと街に人が集まる。人が集まれば、新型コロナウイルスの感染は防げない。非常事態宣言が出ても、補償がなければ、こういった悪循環が続いてしまう。
ノーベル賞を受賞された京都大学の山中伸弥教授も、「5つの提言」の4つ目で、次のように記されている。ちょっと長いけど、とても大事なので引用する。
「短期間の自粛要請を繰り返すと、国民は疲弊します。厳格な対応をとっても、中国では第1波の収束に2か月を要しました。アメリアでは3か月と予測しています。第1波が収束しても、対策を緩めると第2波が懸念されます。対策は、ワクチンや治療薬が開発され、十分量が供給されるまで続けなければなりません。数か月から1年にわたる長期休業の間、事業主に対しての補償、従業員に対しての給与の支払いや再開時の雇用の保証を、国と自治体が行う必要があります。/国民に対して長期戦への対応協力を要請するべきです。休業等への補償、給与や雇用の保証が必須です。各国首脳や政治家の手腕が問われています。」
非常事態宣言による要請と休業補償は、セットでなければならないのだ。
◆ご英断を!
この点で、特措法には不備がある。でも、不備があっても、経済対策ならば、政治判断で何とかできるはずである。
民間で地道に働き税金を納めてきた自営業者、中小企業の方たちを、路頭に迷わせるような事態にしてはいけない。その先にちらつく恐慌状態に、この国を導いては行けない。戦後最大の国難にあるいまこそ、政治の真価が試される時である。
政府の皆様。どうか苦境に立たされた市民の声に耳を傾け、また、3を4にすべきだと主張されている方たちの意見に耳を傾け、より効果のある経済対策をとってください! そして、ネットカフェで寝泊まりせざるを得ない方やホームレスの方たちの生活保障と宿泊先の確保も、あわせてどうかご検討ください(オリンピック選手村は最有力候補です)!
この国に暮らす誰もが、いのちをつなぎ、安定した生活をしていけるようにするために。
【注】
(※1)「緊急事態宣言の損失補填、首相が否定「現実的でない」」『朝日新聞デジタル』(2020年4月7日) https://www.asahi.com/articles/ASN4746YGN47UTFK00P.html
(※2)「議員連盟 日本の未来を考える会」https://nihonm.jp/
(※3)「山本太郎、100兆円規模の緊急財政出動を提言」『田中龍作ジャーナル』(2020年4月6日)https://tanakaryusaku.jp/