◆調査しないのは利権のためなの?
新型コロナウイルスの被害者を一人も取りこぼさないためには、検査の拡充が待ち望まれる。それなのに、なんで頑なに方法を変えようとしないのだろう?
実は、利害関係が検査方針変更の阻害要因になっている、という指摘がある。2月28日のモーニングショーを見ていてびっくりしたのだけれど、いまや時の人となっている白鴎大学の岡田晴恵教授が、生放送中にものすごい暴露をされた。国立感染症研究所のOBが、研究上の業績をあげるのにデータを独占したいという理由で、自分たちの手元に集まってくる感染症対策の仕組みを保持したいという意向を示したことが、検査体制の広がらない要因になっていると、政治家などから聞いた話として指摘されたのだ。
生放送だったので、聞いているこっちのほうがソワソワしたけど、岡田先生が咎められたという話はきかないから、かなり確度の高い情報なのではないか、と推察される(※1)。感染研も、大学や他の研究機関と同じく、どんどん国費からの運営費が削られてきたというから、このOBは「業績を上げて予算を振り分けてもらうチャンスだ!」と思ってしまったのかもしれない。
◆上先生が語る、感染研の起源
この話を裏付けるのが、これまたモーニングショーで聞いた、医療ガバナンス研究所理事長・上昌広先生のお話だった。
上先生によると、国立感染症研究所は、その起源をたどれば、生体実験もしていたといわれる七三一部隊にいきつくのだという。軍隊は、実験で得られたデータをもとに、医薬品を開発し、生産し、自分たちの部隊のために役立てる。つまり、基本的に、なんでも自己完結しようとする組織なのだと上先生は強調する。それゆえ、いまの感染研にも、そうした戦前からの精神が残っているのではないか。だからこそ、患者のデータを独占し、ワクチン開発を自分たちだけで行い、権利を独り占めしたいという意識が働いてしまうのではないか。そうだとすると、検査できる機関も限定されたままのほうが、感染研にとって都合がいい、という話なのではないか。そういう指摘だった(※2)。
ただし、岡田先生によれば、研究所の現場の方がたは本当に一生懸命やっていらっしゃるとのこと。あわせて、だからこそ、検査方針はすぐ変えて民間の力も結集してほしい、と2月から熱く訴えてこられた。なのに、5月17日のブログでお伝えした通り、検査能力が2万件に到達したのは5月の15日、という現実・・・。
◆公害との共通点:国の判断で被害が大きくなる
もし、岡田先生や上先生の指摘の通りなら、科学界の一部の自己都合によって国の方針が決められ、新型コロナウイルスの被害者がいのちの危機に晒される状況が続いてきたことになる。いや、国の「基準」に従って自宅待機で重症化し亡くなった方、保健所に電話してもなかなかつながらず、たらいまわしされて重症化した方も複数いらっしゃるのだから、国の判断による市民のいのちへの侵害は実際にあった、といったほうが正確かもしれない。
公害事件でも、国の判断により市民のいのちが削られてしまった例はたくさんある。たとえばカネミ油症事件。カネミ倉庫が発売した米糠油に猛毒のダイオキシンが入っていたために引き起こされた、九州北部での公害事件である。じつは、この公害には前触れがあった。米ぬか油の油かすを食べたブロイラーが、数十万羽単位で死んでしまう事件が起こったのである。ところがこのとき、米ぬか油を販売していいかどうか調査に入った農林省の担当官は、Goサインを出した。その結果、カネミ油症という最悪な結果を招いてしまったのだ。
国の判断で被害が大きくなるという点でも、コロナ問題と公害とは共通している。
◆科学界の都合で被害の実態究明が進まないカネミ油症事件
カネミ油症事件に話を戻すと、真実を追求する科学界に求められるのは、米ぬか油と被害者の症状との因果関係究明のはずである。実際、某旧帝国大学の医学部には、油症研究班がつくられ、毎年かなりの額の研究費が国から支給されている。にもかかわらず、実態調査をしようとする意気込みが感じられない・・・きちんとした疫学調査にもとづいて公害被害の救済を図るべきだとずっと訴えてこられた岡山大学の津田敏秀教授は、油症研究班の姿勢をそう批判する。津田教授によると、油症研究班は、基本的には皮膚科の研究者しか対応に当たっていない。さらに、油症研究班と銘打ってはいるけれども、いまだに、カネミ倉庫の米ぬか油と症状とに直接的な因果関係があるかどうかは分からない、という水準に研究がとどまっているというのだ(※3)。
人間が食して大丈夫と判断した責任を取ろうとせず、被害者と裁判で争い、勝訴した相手(国)から出される研究費。そこに込められた意図を某旧帝国大学のセンセイがたが「忖度」し、「真相究明はしない方がいい」と判断されるのは、オトナの事情としては「賢明」かもしれない。
けれども、科学界がそのような体たらくでは被害者が浮かばれない。カネミ油症裁判は、地裁段階では原告(被害者)が勝訴し、国から賠償金の仮払金が支払われた。しかし、高裁で被告(国)が勝訴し始めると、原告は訴えを取り下げていく。結果、国から仮払いされた賠償金の取り立てに遭い、自殺した被害者もいる。それでも、オトナの事情により、科学界による真相究明は夢のまた夢、という状況のままでいいのだろうか。
◆科学界の都合により遅れる被害の救済
科学界のオトナの事情により、いまや世界の標準となりつつある、できるかぎり検査をしていくという方針になかなか転換されないコロナ対策。同様に科学界のオトナの事情で悉皆調査が成されず、因果関係が不明とされたままのカネミ油症。岡田先生や上先生、津田教授の指摘がほんとうなら、科学界の都合により、実態の解明がなかなか進まないという点で、ふたつの出来事は共通することになる。
そして、今回もまた、このような共通点から見えてくるのは、コロナ禍に直面し、不安を抱える被害者のみなさんが救済されない可能性がより高まってしまう、という現実である。つらい。
【注】
(※1)番組でのやり取りをご存じない方は、次の記事を参照してみてください。「【新型コロナ】PCR検査の拡大を感染研OBが妨害……「岡田教授」がテレ朝で告発の波紋」『デイリー新潮』https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200301-00611325-shincho-soci&p=3(2020年5月12日最終閲覧)。
(※2)番組でご覧になれなかった方は、こちらの記事が分かりやすいです。「【IWJ検証レポート!】新型コロナウイルス対策の政府専門家会議を牛耳り、検査過少路線をミスリードする「国立感染症研究所」の闇を切る! 起源はあの731部隊と一体化した伝染病研究所だった!(前編:戦前・戦中) 2020.3.26」https://iwj.co.jp/wj/open/archives/470899 (最終閲覧日:2020年5月12日)。
(※3)津田敏秀著『医学者は公害事件で何をしてきたのか』(岩波現代文庫・2014年)を参照。