◆忙しさにかまけているうちに、動きが。
昨日は、1週間ぶりのブログ投稿でした。その1週間の間に起こった木村花さんの死。本当に悲しいです。ほんとうは、もっとはやく追悼を書きたかったのですが、かなわずにいました。言い訳になってしまいますが、とても忙しかったのです。
とある思い(※1)から、基本的に紙媒体のレジュメで授業をしてきた私は、コロナ禍によってオンラインでの開講となった授業のため、いちからパワーポイント資料を作成しなければなりませんでした。しかも、めぐりあわせが悪く、カリキュラム改組に伴い、今年から前期の授業が増えたところに、大学院の1日授業、学外の連携講義の当番となっていて、そこにオムニバスの講義もいくつか重なってしまっているのです。くわえて学内業務も目白押しです。それゆえ、夜が白んでから寝て朝起きるような状況に陥り、首が回らなくなっているのです。今週末も、終日仕事です。
そのようなわけで、追悼の思いがこみ上げてきてもなかなかブログ記事を書くための時間が取れず、ようやく昨日になって思いが叶ったという次第です。
そうこうするうちに、昨日はある展開があり、1週間近くたってようやくというべきか、いまさらというべきか、『テラスハウス』を放送しているフジテレビの社長のコメントが発表された、という報道がありました。今日はそのコメントから感じたことを記したいと思います。
◆フジテレビ社長のコメント全文
まず、フジテレビ社長のコメントの全文を引用します。
<代表取締役社長 遠藤龍之介のコメント全文>
今回の木村花さんの痛ましい出来事に対して、改めて心からのお悔やみを申し上げます。同時に番組制作の私共がもっと細かく、継続的に、彼女の気持ちに寄り添うことができなかったのだろうかと慙愧の念に堪えません。
「テラスハウス」はリアリティーショーであり、主に若者の恋愛を軸に、それにまつわる葛藤や喜びや挫折など様々な感情を扱うものですが、刻々変化する出演者の心の在り方という大変デリケートな問題を番組としてどう扱っていくか、時としてどう救済していくかということについて向き合う私どもの認識が十分ではなかったと考えております。
以上のことを考慮したうえで、今回、既報の通り、同番組の制作、地上波での放送、およびFODでの配信を中止するとともに、今後、十分な検証を行ってまいります。
最後になりますが、ネット上では、出演者や関係者などへの中傷も相次いでいると聞いており、大変、憂慮しております。そういったご批判は番組を制作・放送・配信していた我々が受けるべきものと考えていることを申し添えます。(※2)
◆どうしても他人ごとのように感じられてしまうコメント
コメントを何度か読み返してみましたが、どうしても心に響かず、疑問ばかりが浮かんできます。以下は、その理由です。
1段落目では、木村花さんへの哀悼の意と慙愧の念が述べられています。『広辞苑』(第5版)によれば、よく聞く慙愧という言葉の意味は「恥じ入ること」なのだそうです。「自分の言動を反省して恥ずかしく思うこと」と意味が紹介されている『大辞林』(第三版)では、慙愧の語源も乗っていて、「元来は仏教語で、「慚」は自己に対して恥じること、「愧」は外部に対してその気持ちを示すことと解釈された」のだそうです(※3)。
以上、慙愧の意味を知ったうえで2段落目を読むと、ふつふつと疑問が湧いてくるのです。社長は、『テラスハウス』をいまだに「リアリティー」ショーだと、若者の恋愛に「まつわる葛藤や喜びや挫折など様々な感情を扱う」演出のないリアルを追求したものだったと思っていらっしゃるらしいのですが、ネット上にはもう、昨日紹介した、製作スタッフの方の反省コメントの記事だけでなく、海外でも同じように演出と自分自身とのギャップに苦しみ、自殺された出演者がいるという痛ましい記事がたくさん紹介されています。
慙愧の念に堪えないというなら、いろんな情報を集め、何がよくなかったのか考えぬこうとするのがふつうではないだろうか、と感じてしまうのです。3段落目では「検証する」と書いてありますが、ネット上のスタッフの声や海外の事例の記事はすぐにでも読めたのでは、と思ってしまうだけでなく、1週間もあれば、現場のスタッフを呼び出し、問題点を洗い出すだけの時間があったのではないか、という疑問も湧いてきます。それなのに、2段落目では、『テラスハウス』を「リアリティー」ショーと言い切っている・・・それでは、『テラスハウス』がほんとうのリアルを伝えていると勘違いし、誹謗中傷を浴びせた人たちと同じ次元での発言になってしまわないだろうか。そう思えてならないのです。
だから、どうしても、社長のコメントは、自分こととして受け止めているようには感じられず、他人ごとのように思えてならないのです。
勇気ある現場スタッフの告発にすら触れられておらず、いまから検証するというコメントにがっかりしてしまいました。出演者へのフォローが無かったのはなぜなのか。木村花さんのコスチュームにたいする演出が注目された後、さらに煽るような番組編成にしたのはなぜなのか。そこに、出演者の人権を無視した利益中心の意図はなったのか。こうした点が一刻も早く解明されるよう、願うばかりです。
【注】
(※1)黒板でつかうチョーク。その多くは「日本理化学工業株式会社」製で、私の勤務先でも使用させて頂いています。なぜ私がレジュメでの授業にこだわってきたかというと、そのチョークを使い続けたかったからです。『東京新聞』の「こちら特報部」の記事ではじめて知ったのですが、同社のチョークには、元会長の理念により、障がい者を雇用して制作されるようになっていった歴史があるからです。
(※2)「「テラスハウス」木村花さん死去 フジテレビ社長がコメント」『FNNプライムオンライン』(2020年5月29日配信記事)https://www.fnn.jp/articles/-/47196
(※3)「慙愧」『コトバンク』https://kotobank.jp/word/慚愧・慙愧-277046