◆「水俣食中毒特別部会」はなぜ解散させられた?
千場茂勝さんの歴史的な証言を読むと、「水俣食中毒特別部会」が解散させられたのは、どうやら、国の意向に反する答申を出したから、というのが理由らしい。
当時の政府はとにかく、高度経済成長を支える企業、チッソ株式会社の工場の操業を止めたくなかったのだろう。だからこそ、「偉い」学者を動員して、有機水銀説ではない理屈をなんとかひねり出そうとした。そして、チッソの水俣湾での調査では全く出てこなかった「爆薬」だという説と、アミン説とにこだわり、それを「根拠」に国会を乗り切ろうとしたのだろう。
でも、医学者である鰐淵さんは、自らの矜持を曲げなかった。水俣病が有機水銀に由来するという説を答申した。良心に従う科学者は、政治にとって、目の上のたんこぶだったに違いない。だからこそ、答申が出された翌日に、政府は、鰐淵さんの全く予想していなかった解散という挙に出たのだろう。
◆専門家会議の廃止にも、同じような構図が?
新型コロナウイルスの専門家会議の廃止にも、「水俣食中毒特別部会」の解散と同じような構図が隠されているのではないか、という気がする。
このブログでは、以前、上昌広さんのご見解を交えながら、戦前から続く感染研のデータを独占したいという欲望と、感染者数をなるべく小さく見せたいという政府の思惑が一致したのではないかという巷間での推測を紹介した。それが原因かどうかは分からないけれども、24日の会見で脇田座長がいまだに市中感染は起こっていないかのような発言をしたように、専門家会議は、たしかに、被害を小さく見せようとしてきたようにも映る。そういう意味では、政権に寄り添っていたといえるのかもしれない。
だけれども、政府の見解とぶつかる側面もあった。25日の『グッドモーニング』(テレビ朝日)でも紹介されていたけれど、政府が全国の公立学校の一斉休校を要請した際、安倍首相は「専門家会議の指摘を受け全国一律と判断した」と言っていたけれど、脇田座長は一斉休校の効果そのものを議論してはいないと真っ向から反論した。
それだけではない。おなじく25日の『グッドモーニング』によると、3月2日にまとめられた専門家会議の「見解」には、当初、無症状の人も感染させているという文言が入る予定だったらしい。でも、政府側の「パニックが起きかねない」という意見により削除されたのではないか、と言われている。
このようにみてくると、同意しかねる部分は多々あったけれども、科学者としての矜持を所々で発揮してきた専門家会議は、政府にとって目の上のたんこぶだった可能性が高いのではないか、という予感がしてならないのだ。
◆「見解」に納得していない専門家会議の参加者がいたのでは?
24日の記者会見で、3月2日の「見解」をめぐる当時の議論を聞かれ、脇田座長はそれだけで結論が左右されるわけではないとかわした。尾身副座長は、みんなが納得した上で結論は出ている、議論のなかでいろんな意見があったのは当然で、最終的には専門家として見解をまとめているのだから問題ないと、こちらもうまくかわす回答だった。
でも、いまや誰もが知っているように、専門家会議の議事録は存在しない。だから、無症状の人であってもうつしてしまう可能性があるという見解をどれくらいの委員が主張していたのか、その意見がどのような過程で削除されるに至ったのか、検証する材料がない。だから、座長と副座長の言葉は、なんだか政府をかばっているような感じすら受ける。
でも、メディアで本来の見解と実際の見解との相違が報道されたということは、委員か、あるいは会議に出ている官僚・政治家のだれかが、メディアにリークした可能性が高い。つまり、専門家会議のなかで、無症状の人もほかの人にうつしてしまう可能性があるという文言の削除に、納得していない人がいると推測されるのだ。
その点からいっても、座長と副座長の記者会見での発言は、ちょっと誠意にかけるのではないか。そう感じられて仕方がなかった。