◆やっと大手メディアで報道された!?
最近、小川彩花さんの『NEWS23』が面白い。新型コロナウイルス問題が深刻になったころから、世論を引っ張ってきた『羽鳥慎一モーニングショー』をずっとみてきた。けれど、国会議員による広島での公職選挙法違反疑い事件、検察庁法改正案の問題などいろんな社会問題が取りざたされているとき、いっさい取り上げられない日が多くあって、ガッカリし、いつの間にか見なくなっていた。それらの社会問題がひとつ、またひとつと新たな段階に進んでいくのを日々ネットで確認している身としては、地上波テレビ放送でさらに突っ込んで欲しいことが全く取り上げられないと、フラストレーションがたまる。そんなある日、録画しておいたNEWS23を見てみたら、痒い所に手が届く情報だけでなく、社会問題で影響を受けている当事者への独自取材もなされていて、一気に見てしまった。それ以来、NEWS23を見るのが日課となったのである。
このあいだの月曜日、6月30日の朝。いつものように録画した前夜のNEWS23を見ていたら、拙ブログの2020年5月17日付記事で紹介したプレシジョン・システム・サイエンス株式会社の検査機器の導入が、日本ではなぜ遅いのかを特集していた。やっと大手メディアが取り上げてくれた。もしかしたら別のメディアが報道していたかもしれないけれど、自分が気づいたのは初めてだったので、嬉しくなった。
◆唖然とする厚生労働省の回答
2月から3月にかけて、感染の拡大が予想されていた時期、全体像を把握するにはとにかく検査体制の拡充が必要だといわれていた。しかし、行政の動きは遅かった。そうしたなかで、検査体制の拡充を訴えていた羽鳥慎一モーニングショー。そのなかでも、呼吸器科がご専門の池袋大谷クリニック院長・大谷義夫先生は、コロナ疑いのある人ですら保健所でブロックされて検査が受けられないという現場の悲痛な声を発信し続けていた。検査して欲しいのに検査してもらえない。医師がしてほしいと保健所に掛け合っても検査してもらえない。そうした状況のなかで重症化した人、亡くなった人が春先に出てしまったのは、いまや私たちの共通認識となっている。
そうした事態に陥っていた時期に、プレシジョン・システム・サイエンス株式会社の全自動装置を早期導入する選択肢はなかったのか、というNEWS23の質問に対し、厚生労働省は「全自動装置が日本の検査現場のニーズに合っているかどうかは分からない」と回答したという。だったら、当時、実際に検査現場のニーズは吸い上げたのか、という続けての質問に対しては、「何をどこまでやるかだと思う」「地方の現場でそれぞれ判断してもらうのが適切だった」と回答したのだという。
◆第2波の到来を極力おさえるのに必要な対策
本来は、国が主導で、従来の方法よりはるかに安全で多くの検体を検査できる全自動検査機器を導入すべきだったと思う。それでも、100歩譲って、「地方の現場でそれぞれ判断してもらうのが適切だった」と言うのなら、地方の現場が全自動機器の導入を決定できる選択肢を整えておかなければならなかったはずである。許認可権は国にあるのだから。しかし、プレシジョン・システム・サイエンス株式会社の全自動装置で使用される検査試薬の認可が下りたのは、つい最近のことだったという。取材に対する回答と、これまでの経過とが乖離しすぎている。厚労省の回答は不誠実だと感じる。
しかも、いま、第2波の到来が懸念されているにもかかわらず、政府が検査体制の拡充に動く気配はない。NEWS23の件の特集では、こうした行政の動きを受けて、宇都宮市にある「インターパーク倉持呼吸器内科」院長の倉持仁先生が次のように指摘されていた。
いま、社会は経済とコロナ対策の両立を図らなければならない状況になっている。そのために重要なのは、予防である。第2波を予防するには、感染が落ち着いている今の段階で、無症状者を補足し、隔離する必要がある。そうすれば、ウイルスの市中感染を抑え込むことができ、第2波の到来を抑制できるかもしれない。それと並行して、第2波に備えるための準備をする必要がある、と。
倉持先生の指摘は、ごもっともだと思う。3日連続で東京都の感染者数が100名を超えたように、市中感染はいまなお続いている。私たちの免疫力が比較的高いいまの季節に倉持先生のいう予防策を講じておけば、第2波の感染拡大は最小限に止めることができるかもしれない。
◆現場の声を抑圧した力
しかし、厚労省のNEWS23への回答からみると、いまだ地方まかせで、現場のニーズをすくい上げた形跡もないらしい厚生労働省は、自動検査機器の導入にも消極的なままである。そして、他の先進諸国と比較して日本の死亡者数と死亡率は少なく、日本モデルのコロナ対策は成功したという見解を崩していない。
安倍首相は先進国と比較して日本のコロナ対策は成功したと会見で述べた。けれど、すでによく知られているように、アジアのなかで、日本における単位当たりのコロナ死亡率は、高い。それは、中国、台湾、韓国だけでなく、いわゆる「途上国」とされるベトナムよりもはるかに高い値である。しかも、日本法医病理学会の近藤稔和理事長が、コロナ感染が疑われる検視遺体の検査を依頼しても受け付けてもらえなかったと明らかにしているように、ウイルスに感染した人がすべて捕捉されているかどうかも疑わしい(※1)。こうした点に照らしてみたとき、疫学的にいえば、感染者の捕捉と感染防止対策に成功しているとは決して言い切れない。
それなのに、人の命がかかっているがゆえに、こうしたおかしいところは見直していくべきコロナ対策においても、「日本の対策は成功している、文句を言うな!」という日本スゴイ病に基づく医療者への攻撃があったらしい。それは、現場の悲痛な声を届けてくださっていた大谷先生への嫌がらせである。3月上旬、厚生労働省は、名指しで、羽鳥慎一モーニングショーを非難した。それからというもの、池袋大谷クリニックには、嫌がらせや抗議が殺到し、業務に支障をきたしたのだという(※2)。
こういう事実があったのを、私は昨夜はじめて知った。だから、大谷先生のお顔をテレビで見ることがなくなっていたんだ・・・。未知のウイルスを前にした、いのちを守るための対策は、現場の声をふくめ、おおくの英知を結集していかなければならないはずである。にもかかわらず、医療者の声が抑圧されていたという事実。これは、自由民主主義社会ではあってはならない事態である。
【注】
(※1)「検視遺体のPCR検査を 日本法医病理学会が要請 依頼した半数が断られ」『毎日新聞』2020年5月20日付記事(https://mainichi.jp/articles/20200520/k00/00m/040/001000c)。
(※2)「『モーニングショー』などでPCR拡大を訴えてきた大谷医師がネトウヨの電凸攻撃について明かす!「反日」と怒鳴り込まれたことも」『LITERA』2020年7月3日付記事(https://lite-ra.com/2020/07/post-5503.html)。