◆8・6水害で機能を失った浄水場
この【災害から考える】シリーズでたびたび言及している、鹿児島8・6水害。このとき氾濫した川のひとつに甲突川がある。郡山町(現鹿児島市郡山町)にある八重山の水源から流れ出し、水田を潤しながら国道三号線沿いを錦江(鹿児島)湾に向かって流れていく、けっこう大きな川だ。途中からは鹿児島市北部の町のなかをぬって流れていく。
その甲突川が、8・6水害のとき、濁流に変わった。鹿児島市北部に水を供給している河頭浄水場も浸水し、機能しなくなった。高校受験を控えていた私は、夏休みを利用して、団地に住む伯母の家に泊まり込み、塾に通わせてもらっていた。その団地もまた、河頭浄水場から上水が流れてきていたものだから、水道が見事に止まってしまった。それから、自衛隊の給水車から水をもらい、団地の5階まで運ぶ日々が始まった。大変な作業だった。
水は怖い。でも水がないと生きられない。そのことが強烈に意識された、中学3年生の夏休みだった。
◆上流林を守るボランティア
そんな甲突川の氾濫が起きてしまったのは、上流林が荒廃していたからではないか。下流に住む鹿児島市民は、そのことに無関心すぎたのではないか。そうした問題意識から結成された「鹿児島水と緑の委員会」(会長:原口泉鹿児島大学教授〔現名誉教授〕)により、上流林を守る運動がはじまった。
恥ずかしながら、私は、ボランティアに興味をもち活動を始めた大学4年生になってからはじめて、そのような運動があるのを知った。そして、3年ほど活動のお手伝いをすることになった。
委員会の活動はけっこう大々的に行われていて、新聞にも予告が掲載されるほどだった。ただ、植林活動のときはドッとボランティアが集まって、用意していた300本の苗木がすぐなくなってしまうくらいだったのだけれど、徐間伐となると30人集まるかどうかだった。
◆一番大事な徐間伐作業
でも、森の二酸化炭素吸収率を上げようと思ったら、大事なのは、実は徐間伐作業である。手入れの行き届いている森は、放置されて荒れた森よりも、二酸化炭素の吸収能力が1.5倍から2倍くらいに上がるといわれている。だから、一回植えたら満足して終わってしまう植林よりも、徐間伐作業のほうが、粘り強く継続していく必要のある活動なのだ。
「今回の徐間伐作業も、ボランティアさんは集まらないですね」と毎回のように言いながら、樹木を倒し、丸太を運ぶ。切った丸太は、甲突川沿いに委員会が作った炭焼き窯で、炭にかえる。2泊3日ぶっ通しで炭を焼いたことが3回あるのだけれど、2回は大成功! 1回はすべて灰になっていてガッカリしたのを思い出す。
植林、徐間伐、下草刈り、炭焼き。そうした活動の後の毎回の楽しみは、毎分800リットルの湯量を誇る、お肌がスベスベになる郡山温泉に浸かることだった。