◆海外の森を守る活動
水と緑の委員会でのボランティア活動。大切な思い出のひとつである。ただし、日本の森を保護・管理するだけでは、温暖化は止められない。
よく知られているように、世界では毎年、四国と九州を合わせたほどの広大な森林が失われている。だから、海外の森も守らなくては、人類活動によって放出される二酸化炭素がどんどん増えていってしまうのだ。
そこで水と緑の委員会は、毎年、中国での植林活動も実施していた。貧乏学生だった私には旅費が払えなくて、一度も参加できなかった。残念!
◆日本の木材自給率が下がった理由
実は日本は、これまで長いこと海外の森を破壊する立場にあった。下のグラフを見てほしい(※1)。折れ線グラフは、1955年からの日本の木材自給率の推移を表している。棒グラフは、色ごとに、木材の産地・品別と供給量を表している。
このグラフを見ると、1955年には95%ほどあった木材の自給率が、2002年に18.8%で底を打ち、次第に回復しているのがわかる。自給率が下がったのは、ウッドマイルズ研究会によると、木材が売れに売れた高度成長の時代、品質が均一でなかったり、優良材に質の落ちる材が混入したりするなど「ごまかし商法」がまかりとおり、木材の自由化が始まって以降、国産材が敬遠されたのが原因だったらしい(※2)。
ごまかし商法は論外としても、品質が均一でないといけなかったのには、住宅建設業界の特殊な事情があったらしい。多くの国では、住宅を建設するのは地元産材を使った中小規模のメーカーだけれども、日本の場合は、高度成長期のマイホームブームを支えたのが大手のハウスメーカーで、どんどん住宅を建設していくために品質が均一の木材が必要だったのである(※3)。
◆住宅工法の変化と熱帯林の減少
消費社会が拡大し、どんどん住宅を建てなければいけないなかで、合理的な建設方法が追及された結果、国産材よりも外国産材のほうが使い勝手がいい。高度成長期の日本では、そうして木材の自給率が下がっていった。
このとき、合理的な建設方法として「大壁構法」が編み出された(ウッドマイルズ研究会2007)。大壁構法とは、木材でつくった枠組みの上から、おおきな合板を打ち付け、一気に家を作り上げてしまう工法のことである。これなら、木の枠組みを作ってから土壁を築いていく伝統的な工法よりも、住宅建設が圧倒的に早くできる。まさに、マイホームブームの時代の理にかなった工法だった。
そして、この合板の材料として輸入されたのが南洋材だった。南洋材とは、東南アジアの熱帯林の木材である。フィリピン、マレーシア、インドネシアの熱帯林を切り開いて日本に輸入されたものである。その結果、日本の木材需要を満たすために、東南アジアの森林被覆率は、どんどん落ちていった。
◆豪雨災害と海外の森の消失との関係
グラフをもう一度みてほしい。1955年度にも、黄色い輸入丸太材がある。なぜかというと、平成26年度の『森林・林業白書』によれば、終戦直後、日本政府が支援したのが合板産業で、昭和23(1948)年からそのための南洋材が輸入されていたからである。当初はアメリカへの輸出や米軍の需要を支え順調だった合板産業も、アメリカとの貿易摩擦に直面し、輸入自由化後は、高度成長を支える住宅用合板の生産へとシフトしていったのだ(※4)。
ここで確認したいのは、合板産業の支援が国策によって遂行されたという点、そしてそのために南洋材が必要となり、東南アジアの熱帯林が破壊されていったという事実である。
木材需給の歴史のお話になってしまったけれど、海外の森が破壊された結果、二酸化炭素の吸収ができなくなり、海水温が上昇して気候変動に影響が出ている以上、私たちが直面している豪雨災害と海外の森の消失とは、切っても切れない関係にある。
では、どうすればいいのだろう? 水と緑の委員会が海外で植林活動をしていたように、多くのNGOが、東南アジアで活動を展開されている。敬服に値する。それに加え、社会の仕組みの改革も必要なのではないかと私は考えている。この点については、今年の秋に刊行される雑誌『人間と教育』に寄稿したので、ぜひそちらをご笑覧ください!
【注】
(※1)令和元年度『森林・林業白書』161頁。林野庁のホームページから閲覧可能。
(※2)ウッドマイルズ研究会『ウッドマイルズ 地元の木を使うこれだけの理由』農文協、2007年、184~185頁。
(※3)同上書、185頁。
(※4)平成26年度『森林・林業白書』26頁。