◆木材の自給率が上昇した理由
この【災害から考える】の4回目(2020年8月2日記事)で掲載した日本の木材自給率のグラフを見ると、2002年に18.8%で底を打った値が、2018年には36.6%と2倍近くにまで持ち直している。これは、【災害から考える5】で記したウッドマイルズを減らすため、地元産材を建材として使おうと各地で奮闘されてきた方がたの実践の成果が大きい。
地元産材が使われるようになると、森が元気になって災害に強くなる。それだけではなくて、手入れされている人工林の木は、手入れされていない人工林の木よりも、1・5倍から2倍くらい多く二酸化炭素を吸収するから、地球の温暖化を緩和する契機にもなる。そうすれば、めぐりめぐって海水温の上昇を緩和することにもなるから、豪雨災害を減らせる可能性も俄然たかくなる。
地元産材を使った住宅は、ウッドマイルズを抑え、気候変動の緩和にも寄与するのだ。
◆釜石地方森林組合の挑戦
地元産材を使うメリットは、ほかにもある。そのことについて考えるため、授業で毎年、地元産材を使う実践として、釜石地方森林組合の復興住宅のVTRを視聴している。2014年11月16日に放送された、NHK『明日へ 支えあおう』という番組の「森のチカラで支えたい~釜石地方森林組合・住宅革命に挑む」というドキュメンタリーである。
参事の高橋幸男さんは、被災された方がたの心のよりどころとなる住宅を地元産材で提供できないかと考えた。でも、被災された方がたはすでに経済的な負担を負っている。そこで、地元産材を使った30坪1千万円の家づくりを目指し、奔走した。でも、安くしようと頑張れば頑張るほど、もぐらたたきのように、一方を解決すればこっちで問題が発生する。
そうした問題を、議論しながらひとつひとつ解決していく高橋さん。たとえば、製材所に安く製材をお願いするため、組合が玉切りする段階で長さを揃える作業をすればいいというひらめき。設計士さんからのアドバイスで、組み合わせる建材の規格数を少なくし、住宅の設計も、家族向け、漁師さん向けなど数を絞り、設計料も安く設定。
そうした工夫により、安価な住宅をみごと実現されたのだ。
◆地元産材を使う実践のメリット
その結果、釜石地方森林組合では、雇用者数が増えた。番組で紹介されたのはそこまでで、その後の動向を追えていないので、ここからは、ほかの地域と共通する側面での推測になるけれども、地元産材を使った住宅の需要が増加すれば、森林組合だけでなく、製材所、建材の組み立て工場、建材の保管業者、大工さんといった関係する業者さんすべてに経済循環が発生する。地域に雇用が生まれれば、都会に出たくないけど生活するためやむを得ず出ていた若い世代も帰ることができる。それが都市への人口集中問題を緩和するきっかけになる。
メリットはこういった点だけではない。地元産材を使えば、外国産材を輸入するために使われる膨大なエネルギー消費も減らすことができる。先に述べたウッドマイルズの低減だ。
高橋さんの実践を拝見して興味深いのは、地域の中で、様々なアクターがつながっていき、地域の活性化につながっているところである。おおくの知恵が集まって、地域の資源を使い、地域を元気にしていく。とても素敵な好循環だと思う。
私も地元産材で省エネ住宅を建てたい! でも、都会の土地は高い。子育てにお金がかかって、貯蓄もゼロ。いつまで経っても、かないそうに夢。地元産材を使う運動に、なにも貢献できないのが悲しい。