◆意見陳述
きのうのブログで、今回の道路陥没事故が起こった地域の方たちは、シールド工事の問題点を、行政に対し、ずっと指摘してきたと書いた。
添付のPDF資料は、お世話になっている住民の方が送って下さった、国土交通省に対する意見陳述書である。
(意見陳述書PDFのリンク)https://www.monogusadiary.com/wp-content/uploads/2020/10/statement20160225.pdf
2014年3月に大深度地下使用の認可が下りてから、行政不服審査法に基づき異議申し立てをした住民のみなさんによって順次行われた意見陳述。資料を送ってくださった方は、2016年2月25日に意見陳述をされた。
行政に対する意見陳述は、裁判とは違い、前に座っている官僚のみなさんに向けて、ただただひたすらに意見を述べるだけと教えて頂いた。
その懸命な指摘もむなしく、外環道の工事は認可され、今回事故のあった地域も、振動に悩まされる結果となった。
◆陳述意見の要約
今回の道路陥没事故は、外環道のトンネル工事との因果関係があるかどうか、まだわからない。
けれど、意見陳述書を拝読すると、今回の事故の関係いかんにかかわらず、住宅の真下のシールド工事がいかに危険か、わかってくる。
住民のみなさんは、どのような指摘をされているのだろうか?
ここでは、4つにわたる意見陳述書での指摘事項を、ごく簡単に要約しておきたい。
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1.シールド工事事故の頻発
・1990年代から数えただけでも、シールド工法の事故は10件以上ある。
・今までの都市型地下トンネルは、道路の下を掘るのが基本だった。
・それでも、大規模な陥没事故が起こっている。
⇒それなのに、議事録を読む限り、「東京都環境影響評価審議会」において、外環道工事でも予期される過去の同類の事故を審査した形跡がない!
⇒もし住宅街で陥没事故が起きたら、取り返しがつかないのに、それでいいのか?
・首都高の地下工事でも、シールド工法で軟らかい地盤を掘りすぎて空洞ができ、急遽穴埋めした実績があるのに、たいしたことはないと言い張っている。
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2.トンネル基準法がない。
・平松弘光氏は、1995年と97年の著書の中で、東北新幹線のトンネル掘削工事中の道路陥没事故、阪神淡路大震災の神戸市営地下鉄の大開駅の陥没は、地下トンネルの強度等の基準を定めた法律の必要性を提起するものだと指摘した。
⇒しかし、この国にはいまだにトンネル基準法がない。
⇒20年以上も国交省がトンネル基準法の整備を怠った結果、岡山の海底トンネル事故やNEXCO中日本による笹子トンネル事故をはじめ、その他おおくの事故が起きてしまったのでは?
⇒トンネル基準法もなく、安全性がまったく担保されないまま、住宅地の地下を通るトンネル工事などするべきではない。
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3.トンネルの存在そのものが陥没を起こす危険
・吉澤幸佑氏は「地中レーダによる路面下の空洞調査について」というレポートで、
①埋設管の老朽化に伴う損傷
②地下構造物の埋戻し土のゆるみ
③水みちの存在
の3つが空洞のできる原因だと指摘。
⇒この指摘は外環道にも該当する。
⇒水みちはとくに地下の大規模トンネルには該当する。
⇒東京大学生産技術研究所の桑野研究室でも水道の研究が進められているが、詳細なメカニズムはまだ解明されていない。
⇒しかし、深部に空洞ができたら、長い年月をかけて徐々に影響が大きくなり、工事が完了して何年も経ってから陥没事故が起こる場合もある。
⇒だから、トンネルの存在そのものが、陥没事故を起こす要因そのものとなってしまう!
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4.シールド工事占用許可条件(案)採用の拒否(引用は添付の陳述書10頁)
・事故を軽減できる指針として、国交省近畿地方整備局道路部のまとめた「シールド工事占用許可条件(案)」という文書があることがわかった。
⇒外環道でも適用すべきと考え、国交省への質問の会の席で要求。
⇒「ところが、東京外かく環状国道事務所計画課長の大畑氏は、占用事業は深度の浅い事業であり、外環道には、適用できないし、これはそもそも案なのだから、運用されていないはずということで、検討の意志もないことを明らかにしました。」。
⇒本当かどうか近畿地方整備局に確認したら「運用されている」という回答。
⇒「国交省は何故、自らの組織が作った安全策の適用を外環道事業には拒否するのか」?
⇒このような姿勢は「安全に配慮すべきとしている大深度法違反」である。
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「以上4つの安全性欠如の観点から外環道事業の危険性について申し述べました。それでも外環道事業をあくまでも強行しようとするのであれば、トンネル基準法をつくり、近畿地方整備局の作ったシールド工事占用許可条件(案)を採用し、無過失責任を認め、トンネルが存続する限り補償を確約する法制度を準備してから行うべきです。」(添付の陳述書10~11頁)
◆説得力のある意見陳述書
安全と言われているシールド工法が、いかに多くの事故を起こしているか。
その事故の原因が究明されないまま、歴史上初めて、大規模な住宅街区での地下トンネル掘削工事が行われようとしている。国の定めた安全基準法がないままで。
しかも、地下に大規模トンネルができた場合の水の動態も、いまだ詳細はわかっていない。
完成してからだいぶたって陥没事故が起きる危険があるのに、事業を進める側には責任が問われない。
添付の意見陳述書では、そうした説得力ある指摘が、ふんだんな事例と資料を基に展開されている。
住民のみなさんがご自身で調査された結果をもとに指摘されている問題点を、ぜひご覧いただきたい。
(2020年10月28日7:00、野村羊子さまの指摘により一部修正)
この意見陳述は、文中にありますように、2014年3月に下された外環道大深度地下使用認可に対してなされた異議申し立てについてのものです。私も異議申し立て人の一人として意見陳述をしています。ですので、本文中の「大深度使用認可の下りる前」というのは間違いです。2013年の使用認可の直前には公聴会が開かれ、公募した公述人が公述をし、住民らが同様の内容で反対意見を述べました。しかし、大深度使用認可が下りてしまったため、その行政行為に対して行政不服審査法に基づき「異議申し立て」を行いました。600人程度が申し立てたと思います。申し立て後2年も経過した後に、この意見陳述の機会が与えられ、数十人が意見陳述を半年くらいにわたって行いました。その後、地中拡幅部のための都市計画変更の際にも、異議申し立てを行い、100人程度が異議申し立てをし、やはり数十人が意見陳述をしています。この異議申し立ては同時に、東京都に対しても行い、東京都は国の意見陳述が終わった昨年に大深度使用承認・認可に対する意見陳述の機会を設け、今年11月に地中拡幅部に対する異議申し立ての意見陳述を行う予定です。意見陳述は、一人ひとりの経験と調査に基づく様々な知見が集積されていると思います。このような場で、引用・解説いただき感謝いたします。
野村羊子様
拙ブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。
また、詳細な経過をご教示いただき、感謝申し上げます。
たいへん勉強になりました。
と同時に、時系列を間違えた説明になっており、たいへん申し訳ございませんでした。
お詫び申し上げますとともに、ご指摘いただいた通りに修正いたします。
今後とも、ご指導のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。
ものぐさ講師