1、陥没を起こした空洞とトンネル工事は、関係がある!?
毎朝、配達員さんが持ってきてくれる『東京新聞』の朝刊。
昨日の朝刊は、1面トップで調布市の道路陥没事故の続報が取り上げられていた。
地域の方がたの証言によると、陥没事故の起こった地域では、シールドマシンが地下を通っていた9月中旬、10日ほど振動が続いたという。会社勤めの方の証言では、スマホの震度計アプリで震度2や震度3といった値が計測されていたそうだ。
それが原因なのか、一帯のお宅では、塀のタイルが剥がれたり、塀にひびが入ったりしたという。
こうした証言と合わせて、同記事では、ゆったりとした地盤だと、振動で体積が小さくなって空洞ができる可能性があるという関東学院大学教授の規矩大義さん(地盤防災工学)の見解が記されていた。
外環トンネルの工事と、今回の陥没事故のきっかけだったと思われる空洞との因果関係は、あるのかもしれない。その点を示唆する記事だった。
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2、少なくとも、振動の原因はトンネル工事!?
同記事には、別の研究者の見解も紹介されていた。
早稲田大学名誉教授の小泉淳さんは、同地域の地下は騒音や振動を吸収してくれる細かい粒子が極端に少なくて、礫の割合が高いため、「『シールドマシンのカッターを回そうとしても重くて動かせない状況』になり『振動が大きくなった』」と分析されている(※1)。
小泉さんは、東京外環トンネル施行等検討委員会の有識者委員長でいらっしゃるとのこと。
そのような立場におありの方が、少なくとも振動が地表に及んだ可能性について分析され、ほかの専門家が振動と地下の空洞との因果関係を指摘されたわけである。
もちろん、これから綿密な調査をしなければ、因果関係があったとはまだ断定できないのだけれども。
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3、危険性が指摘されていたのに「想定外」?
ネクスコ東日本社長の小畠徹社長は、定例会見で次のように語ったらしい。
「工事と陥没の関係は調査中だが、大深度での掘進が地表に影響を与えるとは全く思っていなかった。陥没は想定外だった。」(※2)
この言葉を見て、正直いって驚いた。
きっと誰もが経験している、砂場での砂山遊び。その砂山にトンネルを通そうと掘り進めて失敗し、山頂から陥没してしまった記憶は、みなさんもお持ちだと思う。
ましてやシールドマシンは、地上5~6階建てのビルと同じくらいの高さをもつ、巨大な掘削機だ。いくら地下40メートル以深であっても、そんな巨大さがあり、岩石をも打ち砕くほど頑丈な穴掘り機が、一心不乱に土砂や岩石を掘り続けているのを想像したら、地表に影響がないとは思えない。
素人でもわかるようなこうした感覚があれば、地域ごとにまったく様相の違う地下を掘り進める危険性が、すくなくとも直感的には理解できたはずである。
外環トンネル工事も、影響を受ける地域住民のみなさんが、工事の始まる何年も前から、その危険性を指摘されてきた。専門家も、危険性を指摘してきた。
だから、工事を始める前に検証する材料はたくさんあった、といっていい。徹底的に過去のさまざまな事故を洗い出し、危険性を指摘する声にも耳を傾けたうえで、事業を進めるかどうかまで判断できたはずである。
ところが、驚くべきことに、事業者側のトップが「想定外」という言葉を、いとも簡単に口にする。
「迷惑をかけた」と言った、そのすぐあとに。
本当に地表への影響が想定外と考えているなら、ちょっと理解に苦しむ。
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4、「想定外」という共通点
小畠社長の口から出てきた「想定外」という言葉。福島第一原発事故のあと、耳にタコができるほど聞いた言葉だったから、ピンときた。これは、福島第一原発事故とまたしても共通する側面なのではないか?と。
東京電力では、津波が起こった場合の波高の最新予測から、防潮堤を高くすべきかどうかが内部で議論されたけれども、役員が却下したという事実がいまでは判明している。
想定外などではなかったのだ。想定されていたけど対策を怠った、というのが真相なのだ。
これについて、『日本経済新聞』の記事で、東京都市大学客員教授の松村健さんの興味深い指摘が紹介されている。「想定外には二種類ある。安全対策を考える上で想定しないと決めた想定外と、本当に想定していなかった想定外だ」(※3)
つまり、福島第一原発事故のあと頻発した「想定外」は、前者のタイプだったというのだ。
外環トンネル工事も、危険性を訴えるたくさんの声があったにも関わらず、ネクスコ東日本は徹底した検証をしなかったのではないか(※4)。だからこそ、簡単に「想定外」と言えるのではないか。そうだとしたら、小畠社長のいう「想定外」は、松村さんの指摘する、第1のタイプの「想定外」だということになる。
以上から、福島第一原発事故と今回の事故とは、「想定外」という言葉に込められた意味が同じだという共通点があることになる。
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5、それでも、法的には責任が問われない。
福島第一原発事故のあとの「想定外」という言葉は、一定の力をもった。
自然災害の影響だったんだから仕方ない、という空気をつくった。
だからなのか、東京電力のお偉方が被災者に詫びても、徹底した補償はなされなかった。
外環トンネル工事にも、同じ匂いがプンプンする。
いくら事業者のトップが詫びてみせたところで、たとえ外環トンネル工事と今回の陥没事故との因果関係があると断定されたとしても、法的には、地下40メートル以深の工事だから、事業者が地上の地権者に賠償をする義務は発生しない。
どう考えても理不尽である。
この理不尽を押し通すために「想定外」という言葉がもしも使われているのだとしたら、事故後の事業者の対応という点でも、今回の陥没事故と福島第一原発事故とは共通する点をもっていることになる。
【注】
(※1)『東京新聞』2020年10月29日(木)朝刊1面記事「調布市道路陥没下のトンネル工事 振動、他工区より大きく」より引用。
(※2)『東京新聞』2020年10月29日(木)朝刊25面記事「陥没避難 社長『迷惑かけた』」より引用。
(※3)『日本経済新聞』2016年2月7日付記事「フクシマは本当に『想定外』だったのか」https://www.nikkei.com/article/DGXKZO97024370W6A200C1TZG000/
(注4)現に、拙ブログ記事【公共事業と生活2】で紹介させて頂いた地域の方の意見陳述書では、外環トンネル工事でもおこりうる過去の事故を精査した形跡が議事録ではなかったという指摘もある。