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1、びっくりしたトランプ大統領のことば
文化の日に授業を行ったので、昨日はその替わりの休日を取り、大統領選挙の特番を見ていた。
どうやら多くの州が、当日投票された投票用紙を先に集計し、郵便投票を後に開票するらしい。ところが、コロナの影響で過去最高の郵便投票数だったため、逆転の可能性がある州では、結果が出せない状況だった。ペンシルベニア、ノースカロライナ、ジョージア、ネバダの4州が、いまだに最終結果を出せずにいる(日本時間11月5日23時過ぎ現在)。
〈集計作業をする方たちは、どこの国でも大変だな~。本当にお疲れ様です!〉
そう思っていたら、午後4時半過ぎだっただろうか、トランプ大統領が驚くべき演説をしはじめた。もう自分は勝ったのだから、郵便投票を開票する必要はない、と言い始めたのだ!
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2、1票の重みを顧みないトランプ大統領
耳を疑った。どうやら、郵便投票をした多くの人が、コロナへの感染に用心する民主党支持の人たちだと予想されているので、開票してしまうとバイデン候補が勝利する可能性があるから、というのが隠れた理由らしい。
集計結果が1%御南の接戦州の集計をやり直してほしい、というのなら、たしかに、開票作業をする方たちも人間で間違いもあり得るし、ルールとしても認められているのだから、まだわかる。
しかし、アメリカで一番権力をもっている人間が、自分に不利になるから「開票するな」と言うのは、自分が勝つためだったら法やルールなどどうでもいい、主権者の意志が託された1票の重みなどくそくらえ、と言っているに等しい。
そこには、順法精神どころか、民主主義を守ろうという意思すら感じられない。
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3、自由民主主義のもっとも大事な基本理念
トランプ大統領が、そのような姿勢にあるという傍証は、開票するなと名指しした州の投票所にたいし圧力をかけるようツイッターで呼びかけたことから推察できる。
アメリカの政治体制を形づくる自由民主主義は、イギリスの哲学者ジョン・スチュワート・ミルがその根本理念を体系づけたことで有名な、現代民主主義国家の根幹をなす政治思想だ。
ミルは、主著『自由論』のなかで、ある国が自由民主主義社会であるための条件をいくつかあげている。そのなかで最も重要だと思うのは、たとえ、ただ一人だけが唱えているような少数意見であっても、暴力に訴えてこないかぎり、多数者が力によってねじ伏せるようなことがあってはいけない、対話を続けなければならないという指摘である。
なぜなら、多数意見が絶対に正しいという根拠などどこにもなく、少数意見のほうが真理であるかもしれないからだ。それなのに、少数意見を圧力で潰したら、人類が真理に到達する可能性を、多数者が自ら潰す結果になってしまうからだ。
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4、独裁への道
だから代議制を敷く民主主義国家では、選挙がある。少数意見であっても、自分の声を代弁してくれる議員を選ぶためだ。そして、少数意見のほうがやっぱり正しかったかも、と思う主権者が多数になったとき、おかしいと思う政策を繰り出す政権を選挙でかえる可能性を担保していくためだ。
だから、選挙は、少数意見の絶対的擁護という基本理念を受け入れている自由民主主義国家において、主権者である国民が自らの意思を表明するための、もっとも基本的な取り組みなのだ。
それにもかかわらず、最高権力者たるトランプ大統領のしかけた裁判と、熱狂的支持者の物理的な圧力によって、ひとりひとりの意思が開示されないような事態になったら、そしてそれが「功を奏し」、トランプ大統領の続投が決定したら、アメリカはもう自由民主主義国家とはいえない。駄々をこねる最高権力者が、勝手にルールを捻じ曲げ、自分とは違う意見は排除できた、ということになるからである。
最悪のシナリオだけれど、もしもそういう状況になってしまったら、アメリカは、最高権力者が自分の考えを押し通せる独裁社会に堕してしまった、ということになるのだ。
それゆえ、トランプ大統領の演説と、その後に行ったツイッターでの扇動は、アメリカ大統領が見せた姿勢として、歴史上たいへん「重い」ものだったのである。
独裁への道を防ぐには、接戦を繰り広げている州の政府が、圧力に屈することなく、最後の一票までくまなく開票するしかない。