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1、種苗法「改正」案、可決される
昨日11月17日、種苗法の「改正」案が、1週間もかけないスピード審議の末、衆議院の農林水産委員会で可決された。
ネットでこの事実を知ったとき、がっくり来た。私たちのいのちに直結する農作物の種子にかんする法律が、いとも簡単に「改正」されてしまったからだ。柴咲コウさんがおかしいとツイートしてくださったおかげで世論が盛り上がり、国中の知事が見直しを求め、通常国会での可決が見送られていたにもかかわらず、である。
あたまのなかを、たくさんの「なぜ?」が駆け巡った。
けれども、昨日は授業が3つもあり、ひとつはオムニバス講義で今年から新しく担当する回だったから、準備もあって夕方にはヘトヘト。しかも、そのあと夜にはオンラインでの共同研究会で、共著書に関する企画の打ち合わせもあった。そんなこんなで、夜中には洗濯物を干すのがやっとで、頭がまったく働かなくなっていた。
だから、委員会での可決から1日ずれてしまったけど、本会議ではけっして可決されてはならない理由がいくつもあるので、何回かにわたって問題の深層をさぐってみたい。
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2、立法事実がそもそもおかしい!
法律をつくったり改正したりするとき、法律をつくらなければならない・改正しなければならない事実が存在しているかどうか、という点が、重要な争点になる。
今回の種苗法「改正」の理由として、高級ブドウの代表格、シャインマスカットの種子が中国や韓国に流出して無断で栽培され、大きな損害が出たという事実があるから「今後はそうした被害を防がなければならない」とされている。
ところが、今回の種苗法の「改正」は、こういう事実を防ぐための対策としては、かなりずれているように思うのだ。
どういうことか?
第51代農林水産大臣の山田正彦さんによると、山形県のサクランボの苗がオーストラリアに流出したときは、司法によって解決できたのだという(※1)。だから、シャインマスカットの大損害についても、現行の司法制度に則りその違法性を問えばよい、ということになる。
ただし、それには前提がある。田村貴昭衆議院議員(日本共産党)によると、シャインマスカットの無断栽培の違法性を問うには、日本政府が、中国や韓国でシャインマスカットの品種登録をしておかなければならないのだという。そうでないと違法性が問えない。だから、シャインマスカットの損害は、日本政府が中国や韓国での品種登録を怠ったのが原因であると田村議員は指摘する(※2)。
こうみてくると、海外で日本産の農作物の無断栽培を止めるには、海外できちんと品種登録を行い、違法な栽培を発見したら、司法にのっとり厳正に対処するのがなによりも重要だということになる。
そうすると、種苗法をいじくる必要はとくにない、という結論になる。
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3、何が目的の「改正」なのか?
でも、政府は、日本の農作物の海外流出を防ぐために、日本の農家の自家採種や自家増殖を禁止するのだという。
端的に言って、意味が分からない。日本のある農作物が海外で無断栽培されたとしたら、その要因は、悪意を持った人が種子を自国に持ち帰ったからである。けっして、日本の農家が、ある農作物の自家採種をしたり、自家増殖をしたりしたからではないはずである。しかも、無断栽培を発見したら、現行の制度の範囲で、法的手段に訴えることができる。種苗法を改正し、日本の農家を苦しめる必要はまったくない。
だから、政府が根拠とする立法事実と、それを防ぐためとする条文「改正」とが、全くリンクしていないのだ。育成者への使用料を毎年支払うよう農家に強制してみたところで、悪意をもって日本の農作物の種子を海外に持ち出そうとする動きを止められるわけがない。
むしろ、農家が毎年種子を買わなければならないとしたら、日本の農業が成り立たなくなるのではないかという懸念が方々で表明されている。
だとしたら、いったい何が目的の種苗法「改正」なのか?
この点については、つぎの機会に考えてみたい。
【注】
(※1)『女性自身』2020年11月17日配信記事「なぜ“食の安全”への脅威?「種苗法改正」山田元農水相が解説」https://jisin.jp/domestic/1913887/
(※2)『しんぶん赤旗』2020年11月7日配信記事「種苗法「改正」の問題点田村貴昭議員に聞く」https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2020-11-07/2020110706_01_0.html