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5、飲食業界の受難
ひるがえって現代に時を戻し、現在のコロナ禍にたいする政府の対応から考えてみたい。
政府は、会食こそが感染拡大の最大の要因だといわんばかりに、緊急事態宣言の「発出」された地域にある飲食業者にたいし、20時までの営業時短要請を行った。そして、要請に応じる飲食店に1日当たり一律6万円の協力金を支払う方針を決定した。
ところが、この1日一律6万円の協力金が、飲食業界の多様性をつぶそうとしている。
小さな居酒屋やバー、食堂などは、貸店舗かどうか、従業員がいるかどうか等も影響するけれども、1日6万円の協力金を受け取ることで、むしろ儲かってしまう場合もあるらしい。
一方で、いくつも店舗を出店している法人にとっては、1日6万円の協力金は焼け石に水。しかもおおきなチェーン店には、当初は協力金すら支払われない予定になっていた。
28日の夜、1月になってから初めて、国会審議をYouTubeで聴いた。野党の議員が、諸外国と同じように、飲食店の規模に応じてきめこまかな補償をするべきではないか、政府の要請で営業を自粛する以上、飲食店をつぶすようなことがあってはならない、といくら意見しても、担当大臣や首相の答弁は暖簾に腕押しで、見直す気は全くないらしい姿勢がみてとれた。
これでは、すでに大ダメージを受けている飲食業界に、倒産の嵐がふきあれてしまうかもしれない。そうなれば、提供する食事や店舗の形態が、いろんな面白みにつながっている飲食業界の多様性が失われてしまう。同時に、これまで飲食業界が培ってきた多様な食の文化も消えてしまう。
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6、協力金すら支払われないその他の業界
周知のとおり、文化、芸術を担ってきたエンターテインメント業界もまた、おおきな影響を受けている。しかし、不十分な協力金しか支払われていない。こちらも、いくつもの舞台を経営するような法人にとっては、協力金は焼け石に水である。
それでも、協力金があるだけ、エンタメ業界はまだましなのかもしれない。いつだったか、テレビ朝日の『グッドモーニング』で、雀荘やカラオケ、スポーツクラブなど、飲食業界以外の経営者の声が紹介されていたけれど、みなさん異口同音に指摘されていたのは、なぜうちらには協力金が支払われないのか、という不公平感だった。
政府は、GoToトラベルが感染拡大の一因だった可能性を認めない一方で、会食こそが拡大の原因だったとし、飲食業界を責任追及かわしのスケープゴートのように扱っているような気がしてならない。しかもその結果、面と向かって危ないといわれない業界は、時短要請がされたとしても協力金の対象からは外され、飲食業界よりもさらに厳しい経営の危機に直面してしまう。
《参考》「時短要請に応じても・・・協力金得られぬ業種『不公平』」『朝日新聞』2021年1月29日付記事
https://www.asahi.com/articles/ASP1X6SG2P1WTOLB00C.html
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7、同じ轍を踏まないために
けれども、悲しいかな、こうした不公平な対応が、すでに多くの企業を倒産に追いこみ、多くの人に失業をもたらし、住む家を失う人まで生みだしている現状を前にしてもなお、政府がもっとも有効だと考える政策であるらしい。
でも、そうした政府の確信とは裏腹に、不公平な政策が続いてしまえば、街からおおくの灯りが奪われてしまうだろう。その結果、食の文化、遊興の文化、冠婚葬祭の文化、スポーツの文化など、多様な文化を街から消してしまうだろう。そして、いま以上に、多くの人から仕事を奪ってしまうだろう。
このように社会から多様性を奪ってしまうような政策が、国の経済力をどれだけ削いでしまうのか。
想像もつかない。
私たちは、戦時中の歴史の教訓から、その怖さを知っている。だったら、どんな手を使ってでも、同じような轍を踏まないようにしなければならないはずである。
だからこそ、新型コロナウイルスとの闘いがようやく終わりを迎えたとき、経済が上向くための体力を少しでも温存しておけるような、きめの細かい政策が求められているのだ。そのような政策の先進事例は、海外に目を向ければたくさんある。あとは、マスター・ヨーダがいうように「やるか、やらぬか」である。
けれども、この非常時に、まさかの中小企業再編をぶち上げるような総理大臣のもとでは、それは高望みなのかもしれない。
久しぶりに国会中継を見て、そんな不安が頭をよぎって仕方がなかった。