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1、理性
「私たちは歴史の客体であると同時に主体です。ですから、私たち自身が過去を学び、その中から未来を現在の延長とは違うかたちで想像できるわけです。そうやって歴史的な存在であり続けようとするならば、我々は、過去に語られてきたことと自分の関係を対話的に思考し、未来を創造していくことにつなぐ道が開けます。」(苅谷・吉見2020、160頁)
この「歴史上の共通点」シリーズを書くきっかけとなった、苅谷剛彦さん・吉見俊哉さんの対談書『大学はもう死んでいる? トップユニバーシティからの問題提起』(集英社新書、2020年)の一節の再録です。
戦時中の空気と、コロナ禍の現在の空気とに共通点があるのではないかという観点から過去に学び、おなじような轍を踏まないよう未来を考えようというのが、ここでやってみたかった考察でした。
どこまで成功しているかわかりませんけれども、このような考察の際に必要なのは、2月4日付記事「歴史上の共通点⑥重苦しい空気と厳罰化(後編)」でも記した、私たちの理性ではないかと考えています。
ある事象が起こったら、その理由(reason)を考えてみる。そして、もし歴史に似たような事象があったら、その歴史に学び、これから起こる結果を推測してみる。
このような考察は、感覚的におかしいと思った政策がなぜおかしいのか、その理由をみつけることにもつながりますし、また、対案を示すきっかけにもなるように思います。これもまた、よりよい未来を創っていくための、ひとつの方法になりそうです。
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2、熟議
ただ、私たちがおかしいと思っても、為政者のみなさんは、もしかしたら、自分たちの示した政策案がよくない中身になっているとは気づいていないのかもしれません。
このとき重要になってくるのが、熟議と説得です。
いま、日本は、自由民主主義を政治の基本原則としています。
この政治哲学を提起したのは、19世紀イギリスの哲学者、ジョン・スチュワート・ミルです。
ミルは、自由民主主義の根幹は、主権をもった国民一人一人の幸福追求権だと言いました。
だから、少数意見が、たとえ一人であったとしても、その声を抹殺するようなことがあってはならないと、主著『自由論』のなかで戒めています(イースト・プレス社の『漫画で読破』シリーズにもありますのでぜひご覧ください)。
その主な理由として、少数意見に真理が潜んでいるとした場合、それを圧殺したら、人類は永遠に真理を葬り去ることになるのだからとミルは言います。
最近あった好例としては、小林誠さん、益川敏英さんの「素粒子理論」があげられます。、最初はだれからも相手にされていなかったそうですが、観察するための機器の精度が追い付いてきて、ようやく、物理法則の根幹として認められ、ノーベル賞まで受賞されたからです。
社会の問題も一緒です。戦時中、戦争はおかしいという少数意見のほうが正しかったわけですから。
だから、自由民主主義社会では、拙速な決定をせず、熟議を尽くさなければならないのです。このとき、相手にわかってもらおうとするときには、説得こそが必要なのだ。ミルはそう主張します。
厳罰化で少数意見を封じ込めようとする姿勢は、自由民主主義を自ら放棄しているに等しいのです。
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3、投票
では、主権者である国民が、世論に訴えたり、いろんなところで為政者に説得を試みたりしたとして、それでも変わらなかったらどうするか?
そのときは、民主主義の根幹である選挙によって、民意を示すしかありません。おかしいことがどんどんなされていたら、制度上、選挙の際に意見を表明するしかないのですから。
コロナ禍でとくに顕著になりましたけれども、ここで述べてきた理性に基づく科学的な視点が軽視され、少数意見も無視されがちなここ8年ほどの権力の姿勢には、別の要因も潜んでいそうです。
最近のNHK「Eテレ」で、亀井静香さんがはっきり言葉にして物議をかもしているようですけれども、問題は、閣僚のみなさんの多くが、亀井さんと同じように、国体の復活こそ日本をよくする道だと本気で信じていらっしゃるようだ、ということです。
だから、科学的、合理的な判断ができず、国民のいのちや生活が尊重されず、監視社会化し、少数意見を圧殺しようとする戦時中の様相とコロナ禍の現在が似ているのは、偶然ではないかのもしれない。そうも思えてくるのです。
でも、そうした社会がいいんだという考え方は、ひとつの価値観にすぎません。
社会は、もっと多様で、先見性のあるいろんな意見であふれています。この国の未来のかたちについても、そうしたいろんな意見が反映されながら模索される必要があると思います。
いまが戦前と同じような空気なのでは?という指摘はいろいろありますが、山崎雅弘さんの『1937年の日本人』(朝日新聞出版、2018年刊)という本はお勧めだと評判です。なぜか本棚から消えていて、引用できないのが残念です・・・。
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石橋湛山さんのこととか、いろいろ書きたいことはあるのですが、この「歴史上の共通点」シリーズは、これでいったん終わりにしたいと思います。